今から230年以上前、1777年に始まった噴火はカルデラの中央に今の三原山を作った大噴火でした。
大量の溶岩を降り積もらせて山を作っただけでなく、広い範囲に溶岩を流しました。
230年前の溶岩の上では、今どのような景色が見られるのでしょうか?
ここは三原山のすぐ近く、パホイホイ溶岩が流れた場所です。

スベスベした岩の表面には、長い年月が経った今も植物が育っていません。
230年の間には、ここにも細かいスコリアが降り積もったこともあったでしょうが、
きっと風に飛ばされて、岩の表面から滑り落ちてしまったのでしょう。
植物が生長するためには、体を支える根を伸ばす期間、同じ場所にとどまる必要があります。
パホイホイ溶岩の平滑な表面は、種に根を張る隙を与えなかったのでしょう。
一方、パホイホイよりも低温でゆっくり流れるアア溶岩の表面はどうでしょう?
こちらは1986年のアア溶岩の表面です。

ガラガラ崩れた溶岩の上は、荒々しく、一見生きるのが大変そうな場所に見えますが・・・
早春の頃にこのガラガラの火山礫をめくってみると、ハチジョウイタドリの沢山の芽生えを見つけることができます。
(もっとも、気温が上がり黒い溶岩が熱くなるころには、ほとんど姿を消してしまうのですが・・・)

3枚の翼を持ったタネは、時にはくぼみにスッポリはまり込んで体を安定させている事もあります。

今まで観察した限りでは火山礫の粒の大きさは、この植物の芽生えにとってかなり重要な意味を持つようです。
粒が大きすぎるとタネは、ずっと下の光が届かない位置まで落ちてしまい、発芽のチャンスが減るようなのです。
また、粒が小さすぎても風で飛ばされ、なかなか安定した環境が得られません。
厳しい環境の中で、運良く地上に芽生えたハチジョウイタドリたちは、
冬には落葉して土壌に養分を増やし、その養分を利用して他の草が成長を始めます。
そしてそこへ、成長が早く貧栄養に耐える性質を持つ落葉低木が進入し、自ら落とした葉でさらに土壌を作り、
だんだんと常緑の森へ移り変わってゆきます。
ここは、私たちが「樹海」と読んでいるカルデラの中の常緑樹の森。
1777年の溶岩が流れた後に再生した森です。

同じ年代の溶岩流の上でも、最初の写真のパホイホイ溶岩周辺とは全く違う景色です。
きっと溶岩流上に降り積もった火山礫の厚さや風の当たり具合が、
長い年月の間に全く違う環境を作り出すのでしょう。
この森を作っているのは、ハチジョウイヌツゲ、ヒサカキなどの常緑樹です。
この2種類は、再生力が強く、どのような環境にも適応する非常にたくましい樹木です。
大島では、1950年の溶岩流の上から海岸沿いの林の中まで広範囲に分布しています。
鳥がタネを運ぶ樹木のうちでも、噴火の影響を受けやすく、栄養も乏しいカルデラ内の
環境に生きられる種類は、ごくわずかなようです。
そしてそれが、限られた樹木で構成されるこの森の独特な雰囲気を作り出しています。
アア溶岩の岩の亀裂を利用して、ヒサカキが根を張っています。

わずかな隙間を利用して体を安定させています。

土の層は薄く、岩盤の隙間がないと根を伸ばせない植物は、強風で時々倒れてしまいます。
風以外にも・・・。
ここは2年前に雷が落ちた場所だそうですが、岩盤が大きくめくれ上がり木が横倒しになっています。

この光景を見た時に思わず、230年前の溶岩流に覆われた黒い大地を想像してしまいました。
数10cmしかない薄い土壌の上に、これだけの森が育ち、
そして次の噴火で消えてしまう可能性だってあるのです。
“命”ってすごい!
・・・そう思わずにはいられません。
目の前の風景の中に、どれほど多くの生き物たちの、物語が潜んでいることでしょう?
ジオパークの取り組みの中で、火山や生物等の専門家の方々の助けを借りながら
皆でこの島の物語を、もっともっとたくさん見つけていけたら素敵だなぁ、と思います。
(カナ)